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最高裁判所第二小法廷 昭和53年(行ツ)63号 判決

神戸市長田区西丸山町一丁目五三番地

上告人

光観光株式会社

右代表者清算人

松本弘久

兵庫区西橘通一丁目八番地

上告人

諏訪山観光株式会社

右代表者清算人

福西照夫

生田区多聞通二丁目八番地

亡井原大一相続財産破産管財人

上告人

松岡滋夫

右三名訴訟代理人弁護士

池上治

神戸市生田区中山手通三丁目二一番地の二

被上告人

神戸税務署長 信免

大阪市東区大手前之町一番地

被上告人

大阪国税局長 篠田信義

右当事者間の大阪高等裁判所昭和五〇年(行コ)第二〇号、同五一年(行コ)第二四号課税処分等取消請求事件について、同裁判所が昭和五三年二月二四日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人池上治の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、所論引用の判例にもなんら違反するものとは認められない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 本林譲 裁判官 栗本一夫)

(昭和五三年(行ツ)第六三号 上告人 光観光株式会社 外二名)

上告代理人池上治の上告理由

一、原判決は、亡井原大一(以下単に亡井原と称す)が上告会社両社に対し、同人所有の建物とその内部に設置されているトルコ温泉と称する特殊浴場の営業設備一切を賃貸していた、つまり営業の賃貸(商法第二四五条に規定されているもの)に外ならないものであつたとの上告人らの主張を排斥したのは、前記商法第二四五条に定める営業の賃貸借の意義解釈を誤り、本件に関しては単に建物の賃貸借であると速断する誤りをおかしているのである。

そもそも営業の賃貸借とは、一般に「商人がその営業の全部または一部を一括して他人に賃貸する契約である」といわれている。

しかし、営業の譲渡が売買といつても純粋の売買ではないとの同様に、営業の賃貸借も「単なる物」の賃貸借ではなく、これに類似した特殊な賃貸借である。

したがつて、営業の賃貸借を簡単に定義づけることは困難であるから、以下にこの概念を若干分析してみることにする。

(1) まず営業の賃貸借の目的物は単なる物ではなく、一定の営業目的により組織化されて、社会的活力を有する一体としての機能的財産である。

すなわち、営業財産中に存在する事物の賃貸借ことに営業用不動産の賃貸借とは厳格に区別されなければならない。

そこで実際に、店舗や各個の営業所または同様の設備(劇場・映画館・浴場)の賃貸借については、これが単なる営業施設の賃貸借なのか、それとも営業の賃貸借と解すべきかの場合、次の判断基準によるべきであろう。

(イ) 営業の賃貸借の慣用的基準を賃貸施設に附着した得意先の存否に置くもの。

(ロ) 賃貸借契約を締結するときにおいて、いまだ営業がはじめられていない間は、不動産の賃貸借と見、当該営業が契約の締結の当時既に開始されているときは、営業の賃貸借が成立したとみるべきであるとするもの。

けだし、このときには当該営業のために使用される不動産及び現在行われている営業も共に借主に引き渡されたものと考えられるからである。

(2) 次に営業の賃貸借は、賃借人が外部に対して自己の計算において営業するものでなければならない。

従つて、他人の名において他人の計算で営業を行う、いわゆる「使用管理契約」や、また他人の名において通常自己の計算で営業する「経営の委任」が営業の賃貸借でないことはもちろん、共同経営契約や組合契約とも厳格に区別されなければならない。

もつとも表面上の名称が営業の賃貸借ではなく、共同経営契約その他の名称が附されていたとしても、それが内実は賃借人の名と計算でもつて営業されている場合には、営業の賃貸借と解すべきである。(最高裁昭和二九年五月二五日判決・民集八巻五号九五〇頁参照)

要するに営業の賃貸借とは、一定の営業目的により組織化された機能的財産すなわち営業財産を対象とする賃貸借契約であり、賃貸人が独立の経営者たることが要件とされる特殊な契約であると定義される。

二、そこで前記営業の賃貸借に関する一般論から本件の上告人らの場合について具体的に検討を加えてみると、亡井原所有の建物内に亡井原がトルコ温泉設備一切を設置し、同人がトルコ温泉と称する特殊浴場の営業を行つていたのを、上告人光観光が亡井原の個人営業の状態のまゝそつくりトルコ温泉と称する特殊浴場の建物及び営業設備一切を顧客関係をも共に借受けて、上告人光観光が同種の営業を継続したのである。

とすれば、前第一項において述べた営業の賃貸借そのものである。

従つて、亡井原は上告会社の使用する浴場設備一切の修理費用をも負担し、上告会社の営業が継続出来うるように務めていたものである。

今もし、単に建物のみの賃貸借であれば、亡井原にはかゝる浴場設備の修理等をする必要は毛頭なかつたものである。

原判決は、当事者間の締結した契約書からは、単に建物を賃貸し使用することの約定をしたにすぎないというが、先の引用せる昭和二九年五月二五日の最高裁判所の事案において、当事者間において、締結された劇場共同経営に関する契約について、契約書には共同経営という語を用いられていても、営業の賃貸借の一態様であるとみるべきであると論じているのである。

更にまた、同様の判断をしていると見られるものに、昭和三一年五月一五日第三小法廷判決(民集一〇巻五号四九六頁)がある。

三、従つて、亡井原はかような次第であるから上告会社から受取るべき賃貸料は建物のみの賃料の外に営業の賃貸料をも含めたものでなければならないことは理の当然である。

従つて、当然に家賃金より営業財産の賃貸料の方が高額になるのは理然である。

よつて、亡井原は各上告会社から無償賄与を受けているわけではなく、かえつて適正なる営業財産の使用の対価を受取つたものにすぎない。

かような次第であるから、亡井原に対する第二次納税告示処分はこの点からも国税徴収法第三九条に該当するが如き、無償譲渡はないわけである。

しかるに原判決は、営業の賃貸借の解釈を誤り、本件を単に建物の賃貸借であると速断した結果、亡井原に対する第二次納税告示処分を認容したのは、前記各最高裁の判例にも反し、かつ審理不尽の違法があるといわなければならない。

この誤りは、原判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決は当然破棄さるべきである。

以上

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